江川治(靴職人)

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村山の靴作りの恩師です。2003年オリジナルブランドhand sewn welted boot maker 「o.e.」を立ち上げ、2008年Order Shoes Salon 「alte Art」をオープン。ハンドソーンウェルテッドという手縫いの製法にこだわった靴作りをしていらっしゃいます。個人的には世界一上手いと思います。
江川 治(えがわ おさむ)

エンジニアの仕事を辞め、靴業界に転身。
銀座ヨシノヤの製造を請け負うマーベル製靴に入社。ほぼ全ての部署を経験。
その後当時日本で唯一の靴学校、エスペランサ靴学院に入学。授業以外にも、多くの職人のもとで基礎を学ぶ。
卒業後、神戸レザークロスに就職。企画室にてパターン、製甲を担当。
その後、エスペランサ靴学院にて実技講師助手を2年間務め、その傍らオリジナルブランドでのオールハンドメイドの靴の製作を行い、セレクトショップ等で販売。
ビスポークシューメーカーの立上げに伴い、同カレッジでの講師、技術主任として、ビスポーク靴の製作(木型、底付け)に携わる。
2003年、独立後、オリジナルブランドhand sewn welted boot maker o.e.を改めて立ち上げ、同時にもっと多くの人に靴について知ってもらいたいという想いから、機械を一切使わない靴づくりの教室、Snug Shoe Schoolを開校(現在は休講中)。
2008年、オーダーサロンとしてalte Art by hand sewn welted boot maker o.e.を開店。
オールハンドメイドのオーダーシューズの製作・販売を行っている。
〒130-0005
東京都墨田区東駒形4-16-5 栗原ビル1F
alte Art by hand sewn welted boot maker o.e.
tel/fax 03-3625-5528

村山:村山:現在のお仕事を教えてください。
江川:オーダー靴の店 alte Art を主宰しています。
村:現在のお仕事、靴作りに興味を持ったきっかけは何ですか。
江:靴を始める前は電気関係の仕事をやっていて、まあサラリーマンですね。30歳前後ぐらいの年齢って、これからもこのままこの仕事を続けるべきか、違うことをやるべきか考えるような年齢なんですよ。村山君もそういうのあったと思うんだけど。
村:そうですね。
江:それで、サラリーマンとして続けていくよりも、独立して何かやりたいなあ、といのが強かったんですね。そのときは、靴が好きでたまらないとか特別な気持ちは無くって。物作るのが好きだったから、モノづくりをして独立してやれるものはないかなって思っていて、他にも候補があったんですよ。家具とか陶芸とかバッグとか。バッグは自己流でちょっと作っていたんだけど、靴、特に手縫いの靴は全然作り方が分からなくって。そういうわからなかったっていうことが逆に興味を引いたことも靴を選んだ大きな理由になったんですね。
村:僕が始めたころですら手縫いの靴を教える環境はほとんどなかったですから、その頃はもっと難しかったんじゃないですか。
江:私の時は全く無かったですね。靴について教える学校があること自体知らなかった。だから、電気関係の仕事を辞めて靴の工場に就職したんです。そうしたらその会社にそういう学校のことを知っている人がいて、靴学校っていうのがあるんだと知って、そこに入ったんです。
村:そこで手縫いの靴を教わったんですか。
江:いいえ、その学校では手縫いとか全然やらなかったから、資料館とかに行って、そこの製作途中の並んでいるものを見て自己流でやったのが始めですね。そうやって作った靴を、その学校に教えに来ていた職人さんに見せたんです。その職人さんは、昔はそういう手縫いをやっていた人で、じゃあちょっと教えてあげるよっていう風になったんです。個人的にね、昼休みとかを利用してすこしずつ教えてもらったのが教わった最初です。卒業後はメーカーに就職して、仕事しながら自分で手作りの靴を店に置いて販売したりしてましたね。
村:それもやっぱり手縫いですか。
江:そうです。手縫いでやってました。ウェルトやマッケイもあったし色々でしたが、あの時は何を作ってもよく売れましたよ。
村:手製靴を始めたころの話を伺いましたが、ご自身を今振り返って、どの時期がご自身で認める職人としてのスタートだと思いますか。
江:それは独立してスタートしたときですね。今のこの場所は一度引っ越しているのですが、前のその場所で、フィッティングサンプルを作って足に合わせようとしたところですね。そこからがやっと本気かな。
村:こうあるべきだと思っていたものを、自分の理想の段取りで作るようになって。
江:そう。純然たるビスポークではなくて、ちょっと違うアプローチをしようと思って。サイズごとのフィッティングサンプルをたくさん作って、それを履いてもらって、そこからの修正だと結構時間的にもコスト的にも抑えられるんですね。だから幅広い人に履いてもらうことが出来るようになる。デザインもこちらから提案するようにして、お客様の好きなものを作る。そういう感じの仕事をしていきたかったんです。
村:手縫いの靴をもっと多くの方に知って欲しいと考えているから、そのための方法ですね。
江:そうです。手縫いの手製靴の良さをもっと広くたくさんの人に体感してもらい、楽しんで欲しいですね。
村:それでは、靴作りにおいて心掛けていることや細心の注意を払うところはどこですか。
江:1つは材料です。やはり長く使って戴きたいですから。特に手縫いの靴の場合、材料はかなり大事になってきます。甲革から底材の革まで、材料の段階でひと手間ふた手間かけてから使うようにしているんですよ。良い材料を、その革の特徴をなるべく生かして作りたいと思っていますから。もう1つは、見えないところに手を抜かないということです。手を抜いてしまっても見えないですから。見えないところの仕事が最終的な仕上げに影響しますので、そのために生産足数はどうしても減ってしまいますけど、やっぱり手は抜きたくないんです。
村:長く使って戴くために出来ることを、全ての部材ひとつひとつに惜しみなく手をかけてあげているわけですね。そうすると修理にもお客様はみなさん直接お持ちになるんじゃないですか。
江:そうですね、踵の化粧(ヒールの地面に接地する部分)くらいでしたら修理屋さんで交換される方もいらっしゃいますが、多くの方に当方へ持ってきて戴いていると思います。
村:オーダー靴を作っているお仕事のやりがいや魅力をおしえてくだい。
江:一番うれしいのはお客様からの言葉ですね。出来上がった靴を履いてみて喜んでいただくのも嬉しいですし、長く履いて戴いて、やっぱりここの靴は違うね、みたいに言って戴けると、やってて良かったって。頑張ろうって思います。
村:新デザインのサンプルが出来たときなんかはどんな気分ですか。
江:年に1回個展を開いているので、それに向けて新作を作るんですが、机の上にたくさん並べて、「おお~」ってします。alte Artでは2人で全て作っているので、2人でがんばったなって言って。嬉しいですよ。
村:R.F ACADEMYでは、「靴について」と「足について」を2本の柱として学ぶカリキュラムですが、オーダー靴を作るうえで、お客様の足の状態を知るために、解剖や医療的な知識が必要だなと感じることはありますか。
江:多々あります。いわゆる外反母趾なんかもそうですが、どこまで靴で対処していいのか。それから難しいのは内反傾向の足ですね。
村:内反傾向の強い方は多いですよね。
江:どうやっても足が外に押し出される感じになってしまいますから。他にも骨が1か所だけポコッと出ている人や、くるぶしの下に普通の人には無い骨がある人なんかもいたりしますね。
村:普通の既製靴では足が入らないのでオーダーしたいというご要望はありますか。
江:そこまでは言わないですが、やはり普通の靴では苦労するだろうなっていう癖のある足の方は多いですね。ほぼ全てのお客様で木型の補正が必要です。
村:初めから痛みを訴える方が多いですか。それとも採寸の時に察してお話しされるんでしょうか。
江:やはりその部分が常に気になっているという人は多いですね。やはりあまり症状が進んでいる場合にはお断りしないといけないなと思うこともあります。いわゆる外反母趾のお客様やそのほかトラブルをお持ちのお客様にはどこまで対処していいのか判断が難しいこともあります。やっぱり足っていうのは身体全体に影響していくと常に感じています。その点で足や身体に関する知識があるのと無いのとで全然違うでしょうね。知識があれば対処できる幅ももっと広がると思いますから。靴を作るにあたって、足と身体のことを十分勉強することは必要だと思います。